東京高等裁判所 平成12年(け)13号 決定 2000年8月10日
主文
本件異議の申立てを棄却する。
理由
本件異議の申立ての趣意は、弁護人神山啓史外四名共同作成の異議申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。
所論は、要するに、(一) 本件勾留は、本来違法であり、直ちに取り消されるべきものである、(二) 原決定には、勾留を継続する理由及び必要性についての具体的な理由が全く示されておらず、憲法三四条、三二条、刑訴法四四条、市民的及び政治的権利に関する国際規約九条に違反する、(三) 被告人が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」はない、(四) 被告人には、刑訴法六〇条一項各号の理由がなく、被告人の勾留をなお継続する理由と必要がない、以上の理由で原決定は違法であるから、原決定を取り消した上、被告人の勾留を取り消す旨の決定を求める、というのである。
そこで、一件記録を調査して検討する。
一 本件は、被告人が、平成九年三月八日深夜ころ、東京都渋谷区円山町一六番八号喜寿荘一〇一号室において、渡邉泰子(当時三九年)を殺害して金員を強取しようと決意し、殺意をもって、同女の頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所において、同女を窒息死させて殺害した上、同女所有の現金約四万円を強取したという強盗殺人の事案であるが、控訴審における被告人の本件勾留が適法であることは、最高裁平成一二年六月二七日第一小法廷決定(勾留の裁判に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告棄却決定)が判示するところであって、この点に関する所論(一)は採用できない。
二 所論(二)については、原決定は、「なお勾留を継続する理由及び必要があるものと認める」という理由を付して本件勾留取消し請求を却下したことは明らかであるから、所論は前提を欠く。
三 所論(三)については、記録を精査し、所論が指摘する検察官の控訴趣意書及び証拠調請求書をも併せて検討すると、被告人が本件強盗殺人の「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が存在することは明らかであるから、所論は採用できない。
四 所論(四)については、被告人は、第一審の無罪判決後、東京入国管理局庁舎に収容されていたもので、日本国内に定まった住居はなく住居不定であること、本件事案の内容・罪質、被告人の供述態度、第一審及び控訴審の審理状況等の記録上明らかな諸事情に照らすと、被告人には刑訴法六〇条一項各号の事由があり、その勾留をなお継続する理由及び必要があると認められるから、所論は採用できない。
よって、本件勾留取消し請求を却下した原決定は相当であり、本件異議の申立ては理由がないから、刑訴法四二八条三項、四二六条一項により主文のとおり決定する。